日々の生活に漢方を

ナカノメ薬局 中目 健祐が中医学の考えをもとに書いています!

胃痛と漢方薬

胃痛のメカニズム

胃は、胃の粘膜を守る「防御因子」と胃酸などの「攻撃因子」のバランスが正常であると健康な状態に保たれますが、何らかの原因で「攻撃因子」の働きが強まったり、「防御因子」が弱まり、相対的に「攻撃因子」の比重が高くなると胃痛が発生します。

「防御因子」と「攻撃因子」のバランスを崩す要因には、生活習慣の乱れ(脂っこい物/辛い物/甘い物の過食やアルコールの過飲、寝不足など)やストレス、疲労、喫煙など様々あります。

機能性ディスペプシアとは?

近年、病院で検査(内視鏡検査など)を行っても炎症や潰瘍などの異常はないが、胃の不調(胃の痛み、胃もたれ、胸やけなど)が慢性的に続いている方が増えているようです。このような状態を「機能性ディスペプシア:Functional Dyspepsia : FD)」と言い、下記の通り定義されています。

1.症状

機能性ディスペプシア(FD)の診断基準(RomeⅣ基準)

下記の症状のいずれかが診断の少なくとも6か月以上前に始まり、かつ直近の3か月間に上記症状がある。

1.つらいと感じる心窩部痛(みぞおちの痛み)
2.つらいと感じる心窩部灼熱感(みぞおち辺りが焼けるような感じがする)
3.つらいと感じる食後のもたれ感
4.つらいと感じる早期飽満感(食べ始めてすぐに満腹感、膨満感を感じる)
及び症状を説明しうる器質的疾患はない。

食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
少なくとも週に3日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。

1.つらいと感じる食後のもたれ感
2.つらいと感じる早期飽満感

心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
少なくとも週に1日、次の1-2のいずれか1つか2つを満たす。

1.つらいと感じる心窩部痛
2.つらいと感じる心窩部灼熱感

2.原因

機能性ディスペプシアを引き起こす詳しい原因は明らかになっていませんが、

・胃の運動機能が正常に働いてない

・胃酸が過剰に出ている

・胃腸の知覚過敏(胃酸の刺激に敏感になっている)

・ストレスによる自律神経の乱れ

・生活習慣や食生活の変化

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)への感染

などが考えられています。

中医学における胃腸(脾胃)の働きについて

詳しくは「五臓六腑:脾胃の働き - 日々の生活に漢方を」をご参照ください。

中医学で考える胃痛

1.胃寒(いかん)

お酒の席でお酒やお刺身などの冷たい物を食べ飲み過ぎた時に急にお腹が痛くなったことはないでしょうか?

胃腸は体温と同じぐらいの温度で正常に機能すると言われており、急激に胃腸が冷えると本来の働きができなくなります。冷え(寒邪)により機能が低下した胃腸は、気や血が停滞してしまい、この滞りにより痛みが発生します。中医学では、このことを「不通則痛:ふつうそくつう」と言い、滞ると痛みが起きると考えます。また、今回の痛みの原因である「寒邪」には凝滞と収斂という特徴あるため、痛み方はギューッと引き攣るような痛みになります。

このタイプの特徴は

・冷たい物の過食・過飲により引き起こされる痛み

・痛みは激しく、絞られるような痛み

・温めると痛みが和らぐ

胃を温めながら痛みを抑える漢方薬を使うと良いでしょう。

漢方薬の例:安中散、勝湿顆粒(藿香正気散)/香蘇散+芍薬甘草湯など

 

漢方の胃腸薬として有名な「大正漢方胃腸薬」は、上記の安中散と芍薬甘草湯を組み合わせた漢方薬になります。したがって、冷たい飲食物などの寒邪が原因により引き起こさる胃の痛みには非常に効果的ですが、下記で述べるような熱やその他原因による胃痛については、他の漢方薬を使用することが望ましいです。

2.胃熱(いねつ)

食べても食べても直ぐにお腹が空く、いっぱい食べたのに満腹感を感じられない、お腹いっぱいにならないと気が済まないなど、食欲が異常に亢進して困ったことはないでしょうか?

このような状態を中医学では、胃に熱がこもり、働きが亢進している状態と考え、辛い物や脂っこい物、甘い物などの過食や精神的なストレスにより引き起こされると考えます。

このタイプの特徴は

・胃が焼けるように痛む

・胸やけがする

・酸っぱい水や苦い胃液が出る

・口臭が酷い

・食べてもすぐお腹がする

胃に停滞している熱を清ましてあげる漢方薬を使用すると良いでしょう。

漢方薬の例:三黄瀉心湯、黄連解毒湯など

3.肝気犯胃(かんきはんい)

緊張する場面(テストや面接、プレゼンの前など)やちょっとした不安(電車に乗った時や学校、会社に行く前)でお腹(胃)が痛くなったことはないでしょうか?

中医学では自律神経を主る「肝」の気が高ぶることで「脾胃」が攻撃され、その影響により胃の痛みが引き起こすと考えます。

このタイプの特徴は

・精神が緊張状態の時に痛みがでる

・ストレスを抱えやすい、緊張に弱い

・お腹(胃)が張ったような痛み

・よく脇腹が張る、ゲップをする

「肝」の気の流れを良くしながら、「脾胃」を守る漢方薬を使うと良いでしょう。

漢方薬の例:開気丸、四逆散、逍遥顆粒など

4.瘀血阻絡(おけつそらく)

「瘀血:おけつ」とは、血の滞りを指します。上記で述べた寒邪や気滞などが長期間続くと血の流れが停滞し「瘀血」が生じます。瘀血により経絡中の気血の流れをふさぎ「不通則痛」を引き起こすため胃痛が生じます。

このタイプの特徴は

・差し込むような痛み(針で刺されたような痛み)

・痛みの箇所が固定している(瘀血は1か所に留まる)

・お腹を擦ったり、触れたりすると痛みが増す(拒按)

・吐血、便血がみられる

「気」と「血」の巡りを良くすると漢方薬を使用すると良いでしょう。

漢方薬の例:加味逍遥散、桂枝茯苓丸など

5.胃陰不足(いいんぶそく)

胃には、上記で述べたように胃粘液などの「防御因子」がありますが、この胃を守る粘液が不足している状態を「胃陰不足」と言います。(地面に潤いがなく、干からびてひび割れているような状態です。)上記2で述べた「胃熱」が慢性的に続くと、胃内にある潤いが蒸発し「胃陰不足」へと繋がります。また、長年胃の不調に苦しんでおり、胃酸を止める薬を飲んでも症状が一向に改善しない方にもこのタイプが多く見られます。

このタイプの特徴は

・胃が焼けるように痛む

・胸やけがする、上腹部の不快感

・満腹感を感じやすい

・口や舌が乾燥する

・便秘気味でコロコロしている

「胃」に潤いを与えてくれる漢方薬を使用すると良いでしょう。

漢方薬の例:麦門冬湯、艶麗丹、百潤露など

6. 脾胃虚寒(ひいきょかん)

物心ついた時から胃腸が弱い、慢性的に胃痛が続いている場合はこのタイプが多いでしょう。脾胃を温めるエネルギーが不足するとお腹の冷えを感じやすくなり、上記1で述べた「胃寒」とは異なり、慢性的にシクシクという痛みが続きます。「脾胃」が弱い方は、下記の特徴に加え、疲れやすかったり、下痢・軟便、食後にお腹が張る・眠くなるという症状を伴うことが多いです。

このタイプの特徴は

・シクシクとお腹(胃)が痛む

・お腹を擦ったり、おさえると痛みが和らぐ(気持ちが良い)

・食後に痛みが緩和する

・食欲があまりない、食事量が少ない

胃腸の働きを高めながら、お腹を温める漢方薬を使用すると良いでしょう。

漢方薬の例:小建中湯、人参湯、四君子湯類など

 

また、「脾胃」の弱りにより水分代謝が低下すると、不要な水分が胃腸内で停滞するため、胃痛だけでなく胃のむかつきや悪心などの症状がみられることがあります。このような場合は、半夏瀉心湯や黄連湯などの使用も考えられます。

最後に

「下痢と漢方薬」で述べたように日本人は胃腸が弱い方が多いように思います。

下痢と漢方薬 - 日々の生活に漢方を

日本人は胃腸の状態を軽視していますが、中医学では「脾胃(胃腸)」の状態が健康の要と考えます。「人間の体は食べたもので出来ている」とよく言いますが、健康への第一歩は「脾胃」の働きを良くすることが非常に重要になります。

 

長期的に胃の不調が続いており、胃酸を止める薬(ファモチジンやオメプラゾールなど)を飲んでも症状が改善しない、また機能性ディスペプシアのように原因がはっきりせず西洋薬を飲んでも効果がいまひとつという場合は、漢方薬を選択肢にいれてみてはいかがでしょうか。

漢方薬は、上記で述べたようにその症状のタイプに合わせて様々な漢方薬があります。ご自身の胃腸症状に合う漢方薬をお探しの方は、ぜひ一度ご相談ください。

 

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薬剤師 中目 健祐

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